【書評】障害者を障害者たらしめるものは何か。「わたしが障害者じゃなくなる日」を読んで

書評
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こんにちは。複業するフクシです。

介護施設で相談員として働きながら、ブログで福祉に関する情報発信をしている社会福祉士です。

Twitterにあるソーシャルワーカー文庫というタグをもとに、社会福祉士として活動する中で皆さんに読んでほしい、と思う書籍をブログで紹介していきます。

今回はこちら。

  • 書名:わたしが障害者じゃなくなる日
  • 著者:海老原 宏美
  • 出版:株式会社旬報社

皆さんは、障害者の定義は何だと思いますか?そんなことを考えさせられる児童書に出会うことができましたので、ご紹介します。

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著者について

今回紹介する書籍の著者:海老原宏美氏(1977-2021)は、1歳半で脊髄性筋萎縮症という難病の診断を受けた車椅子と人工呼吸器ユーザーでした。

子どものころから車椅子に乗りながらも地域の小学校へ通い、大学生時代はボランティアの力を借りながらも一人ぐらしをしておられました。25歳から人工呼吸器をつけての生活となり、昨年末、静岡県でのフォーラムに病室から参加された翌日にお亡くなりになっています。

生前はNPO法人自立生活センター・東大和の理事長として、障害のある人が地域で生活しやすい社会の実現のために精力的に活動されていました。

脊髄性筋萎縮症は、神経の異常が原因で筋肉の萎縮が起こってしまう病気です。アイスバケツチャレンジで有名となった筋萎縮性側索硬化症:ALSと同じ運動ニューロン系の範疇に入る病気で、根本的な治療法は見つかっておりません。詳しくは、難病情報センターのホームページをご覧ください。

この本を読んだきっかけ

子どもと図書館に行ったときに、児童書の書棚でこちらの本を見かけました。

私は福祉の現場に10年以上いますが、児童・医療・介護の分野で働いたことはありますが障害分野での従事経験はありません。

かなり昔に乙武洋匡氏の五体不満足は読みましたが、福祉の道で働く中で改めて、障害者自身が語る声を知りたいと思っていました。

なにより、児童書というのが良いですよね。難しい言葉は使わないが、メッセージ性は強いであろう。そんな部分に惹かれました。

この本の内容

本書は、以下の三章構成となっています。

  • 1章 わたしは障害者なの?
  • 2章 障害者ってかわいそうなの?
  • 3章 人間の価値ってなんだろう?

児童書として作成されていることもあり、難しい専門用語は使われていません。講義の形式で構成されており、イラストも多く、まさに子どもにも著者自身の考え方がわかりやすい内容となっています。

本の中で特に気になったフレーズを、引用しながら紹介します。

新しい障害の考え方は、わたしたちのくらす社会の仕組みが原因になるので「社会モデル」といいます。

海老原氏の考え方は、社会モデルがベースにあります。障害の有無は誰が決めるのか。障害があるのは、人なのか、社会なのか。地域の学校に通ったり、街行く人に車椅子を押してもらう人サーフィンをしたりといわゆる健常者の社会で生きてきた著者だからこそ、この社会モデルの言葉が持つ意味は大きいのだな、と感じます。

わたしは、がんばる必要はないのです。

どんな障害があってもくらしやすくなるように、あきらめなくてすむように、社会ががんばらなきゃいけないのです。

障害のある人が、地域の中であたりまえに生活する。それをあきらめないでやっていくだけでも、社会を変える大きな力になるんだって。

障害者である海老原氏が地域でふつうに生活することが、バリアフリーを実現するきっかけとなる。日韓トライ2001という翌年開催のワールドカップに向けてのイベントで韓国を野宿する旅を経験したことが、海老原氏を行動させるきっかけとなったとのことです。

日本は経済的には先進国ですが、福祉の観点からすると残念ながら欧米から後れをとっています。

もしあなたが子どもと歩いているときに目の前を海老原氏のような人工呼吸器ユーザーが通ったら、お子さんは何と言うと思いますか?

十中八九「あれなぁに?」ですよね。

その場合、あなたはどんな対応ができますか?やはり課題は、「見ないの」とは言わずにしっかりと説明できることですよね。

先日私自身も、子どもといるときに白杖ユーザーとすれ違いました。視力障害者ですね。

ちょうどこの書籍を読んだ後だったので、子どもに説明することにしました。話をしないという手段で配慮するのではなく、みんなが配慮できるように話をする。これこそが目指す道ではないのか、と思います。

まとめ

海老原氏をはじめとした障害者は、何も特別な存在ではない。

特別な存在にしているのは、我々障害者ではないいわゆる健常者や社会の方かもしれない。

いや、もしかしたら我々だって障害を持っているのかもしれないし、今は障害者ではなくてもいつ障害者となるかはわからない。

ではもし障害者になった時、海老原氏の様に強い気持ちでバリアフリーな社会を実現するために行動できるのか、というとなかなか難しいと思う。それほどまでに、この海老原氏の考えと行動力は凄い。

日本の福祉はまだまだ発展途上ですが、誰しもが公共の福祉に反しない限り自身の生活したいように生活できる社会を実現する。そのためにはどんなことが必要か、を改めて考え直すきっかけをくれる一冊でした。

これは社会福祉士だけではなく、色んな方、特に子どもにも読んでほしい一冊です。福祉について考える、入門書的な役割をしてくれるでしょう。

そう言えばこちらはもともと児童書でしたね。そこまで考えられて作られた作品だということを踏まえて考え、良い書籍でした。

最後に、海老原宏美氏のご冥福をお祈りいたします。

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