【書評】依存症とは、人に依存できない病。「世界一やさしい依存症入門」を読んで

書評
スポンサーリンク

皆さんこんにちは。複業するフクシです。

介護施設で相談員として働きながら、ブログで福祉に関する情報発信をしています。

少し前にTwitterのソーシャルワーカーたちの間で話題になった本がありました。

ようやく読むことができたので、紹介します。

  • 書名:世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい?
  • 著者:松本 俊彦
  • 出版:株式会社河出書房新社

依存症の入り口は、思っていたよりも近くに存在しています。

だからこそ医療福祉関係者だけでなく、「私は依存症なんて関係ない」と思っている方や子育て世代の親御さん、そして学校の先生にもお読みいただきたい一冊です。

スポンサーリンク

著者について

著者の松本俊彦氏は依存症を専門とする精神科医で、現職は国立開発研究法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所において薬物依存研究部部長と薬物依存症センターセンター長です。

松本先生はもともと依存症治療に携わる気はなかったようで、2000年に依存症の専門医療機関である神奈川県立精神医療センターに赴任した時には、下記の様に思ったそうです。

今から25年ほど前、僕が依存症の専門病院に泣く泣く赴任したときのことです。その病院の医師が退職し、誰かが行かねばなりませんでした。医師になって5年目だった僕は、不本意にも選ばれてしまいました。今となっては、あの赴任がその後の僕のキャリアのスタート地点になったと思っていますが、そのときは「飛ばされた」と感じました。当時、依存症は、精神科の医師の間でも敬遠されていたのです。

105項より

その後ご自身もゲームセンターのゲームに依存的となりましたが、その時間があったからこそ今があるとおっしゃっているように、モノやヒトに依存することは決して悪いことではないのです。

この本の内容

この本は、14歳の世渡り術シリーズのうちの一冊です。

この14歳の世渡り術シリーズ、2007年に初めて出版され2022年3月22日発売の新刊を含めると98冊の本が出ています。

シリーズ名にもある通り本書も中学生向けに書かれているため、大人の私が読んでも内容が非常に入ってきやすいです。

構成は以下のようになっています。

  • 第1章 気づいたらハマっていた―モノへの依存①
  • 第2章 居場所が欲しかっただけなのに―モノへの依存②
  • 第3章 依存症のしくみと歴史
  • 第4章 僕が僕であるために―行為への依存①
  • 第5章 傷つけることで生きている―行為への依存②
  • 第6章 依存症の根っこにあるもの
  • 第7章 社会と依存のいい関係

依存症の具体例

第1章と第2章、そして第4章と第5章では実際に松本医師が病院で出会った中学生の治療の様子を事例として紹介しながら、依存症は身近にあり、誰でもその入り口に足を踏み入れる可能性があることを述べています。

周囲が求める自分になりたくて、市販薬を多量摂取した子。親身に話を聞いてくれる夜の街に居場所を求め、たばこをきっかけに大麻に手を出した子。神童と崇められるもその後挫折を経験し、ゲームをやりすぎる状態となり日常生活に支障をきたしてしまった子。摂食障害をきっかけとし、過食してしまう自分に罰を与える意味で自傷行為を繰り返してしまった子。

私自身子を持つ親なのですが、もしこの本を読む前に自分の子どもがこのような状況になっていたら、頭ごなしに怒りその依存対象を強引に奪ってしまっていたのではないか、と思ってしまいます。

「ダメ、ゼッタイ」ではない。

薬物依存症に対するキャッチコピーと言えば「ダメ、ゼッタイ」ですが、実際の依存症治療の現場においては、「ダメ、ゼッタイ」ではダメなのです。

先述したように依存症の場面を見かけるとその依存の対象を遠ざけたくなるものですが、禁止してしまうとかえって欲しくなってしまうもの。

皆さんも経験ありませんでしたか?禁止されるとやりたくなること。かくいう私も、中学生の時は22時以降の携帯電話の使用を禁止されていましたが、親の目を盗んでは自室に持ち込み、夜遅くまで同級生とメールをしたものです。

松本医師も、実際に治療の場では「やめる」よう言うことは無いそうです。

なぜ依存状態に陥っているのか、患者自身に見つめるきっかけを与え、決して罰することなく徐々に他のモノ、コトに依存できるよう支援をする。

人に頼れることで、依存症から遠ざかることができる

僕が尊敬する小児科医の熊谷晋一郎先生は、こんなことを言っています。「自立とは、依存先を増やすことである」と。

191項より

依存症のきっかけは、もしかしたら些細なことかもしれない。でもその根底にあるのは歪んだ人間関係で、否定されたり、支配されたり、本当のことを言えない関係は、一人でもがかざるを得ない状況を作ってしまう。

だからこそ、依存症は人に依存できない病なのでしょう。

環境に働きかけていく

松本医師が第7章で述べておりますが、依存症は無くなりません。

第二次世界大戦時のヒロポンや、バブル期の覚せい剤。私が大学生のころは、脱法ハーブなんて言葉も流行りました。

そして今多くなっているのは、スマホ依存ですかね。

適度に依存することは、良いことである。

であるならば、我々にできることは身近な人が気軽に相談できる環境を作ることではないでしょうか。

ありのままの自分を許す

209項より

できなくてもいい。いい加減でもいい。ありのままの自分を許し、ありのままの他人を受け入れる。

依存できるものは、過度ではなく適度に付き合う。

依存症になる人がいるということを理解して、回復の道を歩むときには温かく迎え入れる。

そうすることで、一人一人が生きやすく幸せな社会が実現するのではないか。

松本医師はこのように述べていましたが、社会福祉士としてもぜひ実現したい社会ですね。

まとめ

ドラッグストアが至る所にあり、どんな成分が入っているかよくわからない市販薬がいつでも買える現代。

コンビニが24時間開いており、いつでもお酒が買える現代。

依存症は、想像しているよりもとても身近にあります(2回目!笑)。

私たちにできるのは、大切な人に孤独を感じさせないこと。

一人になりたい時には一人になれる環境を作っておくこと。

道を外してしまった人が回復に向かっている時には、見守り応援すること。

そしてそんなことを考える人が一人でも多くなるよう、行動を続けること。

そうすれば、人に依存できる人が増えて、今よりも少しやさしい世界になるのではないのかな、と思います。

依存症というテーマを通して、環境への働きかけについて考えるきっかけをくれた一冊です。

少しでも興味を持たれた方、ぜひご一読下さい。

最後に

最近、元プロ野球選手の清原和博氏がキャンプ地を訪れる映像が話題になりましたね。

過度な報道は禁物ですが、清原氏のように依存症に陥った方が立ち直る姿を見ることができるのは、依存症に対するイメージを変えることができる良いきっかけになるかと思います。

このように、Twitterでご自身も発信されていますしね。

よく見れば、清原氏の主治医はこの本の著者の松本俊彦先生ですね。

コメント